絶対王子は、ご機嫌ななめ
その光景に、ギャラリーがざわめく。
「ま、政宗さん! いきなり何するん……」
「俺が傷を負ったまま試合に出ると思うか?」
「え?」
「俺がそんな中途半端な男だと、おまえは思っているのか?」
そう問われ、その自信に満ちた顔に瞳をとらわれる。
政宗さんのことを中途半端な人だと思ったことは一度だってない。普段は俺様で偉そうな態度ばかりとるけれど、曲がったことが嫌いな真面目な人だ。
そんなことも気づかないなんて……。
顎を掴まれたままで少し喋りにくいから、首を横に振ってそんなことは思ってないことを伝える。
「だったら心配するな。ほら、この通り。もうかなり前に治ってるよ」
政宗さんは左手を上げ、親指を何度か曲げて完治していることをアピールしてみせると、驚く私の耳元にニヤリと微笑んでから顔を寄せた。
耳朶に政宗さんの唇が触れて、大きく心臓が跳ね上がる。
「この大会、おまえのために優勝してやるから見ておけ」
吐息とともに伝わった言葉は、私の思考回路を狂わせる。
おまえのため? それってもしかして……。
自分に都合のいい考えばかりが頭の中を駆けまわり、胸の高鳴りは抑えられそうにない。
「じゃあな」
強気な発言を私にだけ残し、政宗さんは元の場所へと戻ってしまう。
途端に身体の力が無くなってしまった私は、腰が抜けたようにその場に呆然としゃがみ込んだ。