絶対王子は、ご機嫌ななめ

「政宗さん、怒ってなくて良かった……」

いつもと変わらない政宗さんだったことに、ほっと胸を撫で下ろす。

とは言っても、あんな大勢のギャラリーの前であんな勝手なことされては困るわけで。

でもその場で怒れないのは、そんなところも全部含めて“曽木政宗”が好きなのだから、今更何を言ってもしょうがない。

「はぁ……」

ギャラリーの好奇の目から逃れるために少し離れたところにある休憩所で、ひとり俯きため息をつく。

自分の素直な気持ちを伝えようと、ここまで来たんだけど……。ひと目の多いこの会場じゃ、なかなか難しそうだ。

橘柚子。二十二年間生きてきて、人生初めての告白。

好きになった人はいたけれど、いつも遠くで眺めていただけ。告白どころか、ほとんどの人と話すらしたことがない。

自分に自信がなくて恋愛事から目を背けてきた私が、初めて好きな人に告白する。

智之さんは、『政宗さんは真面目な人。好きでもない人にキスなんかしない』と言っていた。それが本当ならいいんだけど……。

目線を上げると、缶ジュースを手にこっちに向かってくる智之さんの姿が目に入る。

「せっかくここまで連れてきてもらったんだから、弱気になってちゃダメだよね」

小さな声でそう呟くと、気持ちを切り替え力強く立ち上がった。



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