絶対王子は、ご機嫌ななめ
「柚子」
え? なにこの人。今、私の名前呼んだ? なんで私の名前を知ってるの?
でも今の声、どこかで聞いたことのあるような……。
手で口を押さえられているからだんだん息が苦しくなってきて。頭の中がボーっとし始めると、思考能力が鈍りだす。
でもそんな私に気づいたのか口を塞ぐ大きな手が離されると、されるがままにクルッと向きを変えられた。
その間に急いで大きく息を吸い、深く深呼吸をする。
空気が入ってきて脳が活性化されると、目の前にいる人の顔をじっと見た。
ここは倉庫なのか、明かり取りの小さな窓がひとつあるだけ。まだ暗い部屋に慣れてない目は、その人がどんな顔をしているのか把握できないでいた。
なのに私の中には、変わり始めた感覚がある。
さっきまでの恐怖感が、この人からは感じられない。それは私の名前を呼んだ声が、誰かさんにそっくりだったから。
そう、ぶっきらぼうな彼の声。
「政宗さん?」
なんの根拠もない、まだ輪郭しか分からない人に向かって、無意識に彼の名前を呼んだ。
「なに?」
あ、返事した。ってことは、目の前にいるこの人は……。
「えぇ!? ホントに政宗さんなんですか?」
そうなの? 本当にそうなの?
「おまえなぁ。ホントも何も、今まで気づいてなかったのか?」
「気づくわけ無いですよ! なんですか、こんな誘拐まがいなことして。政宗さんなら政宗さんだって、もっと早く教えて下さいよ!」
ホッとするやら驚くやら腹が立つやら、政宗さんの意味の分からない行動に涙が込み上げてきてしまう。