絶対王子は、ご機嫌ななめ

「キスだけじゃ足りないってこと」

「え?」

足りない? それってどういうこと?

その意味を確かめたくて抱きしめられたまま顔を上げようとしたら、頭からスッポリ抱きしめられて上げられなくなってしまった。

「その顔を見せるな」

「そ、それってどういう意味ですか?」

顔を見せるなって、いくら政宗さんでもひどすぎる。

私だって一応女の子だよ。美人でもないし可愛くもないけれど、そんな言い草はないんじゃないの?

頭に来てしまい「離して!」と政宗さんの腕の中で暴れると、更にぎゅっと抱きしめられる。

「落ち着け。おまえ、なにか勘違いしてるだろ」

「勘違いなんてしてません。離して!」

「はい、どうぞ。って誰が離すか。この俺が、珍しく緊張してんだよ。しばらくこのまま抱かれてろ」

政宗さんの声の違いに、暴れていた身体を動きが止まる。

やっぱり政宗さんは、自分の言ったことは絶対で。その通りにさせてしまう。

でも私がおとなしくなったのは、政宗さんの身体が少し、ほんの少しだけ震えていたから。

政宗さんでも、緊張することがあるんだ……。

政宗さんの知らなかった一面に触れたような気がして、“愛おしい”と好きとはまた違う感情が私に中に芽生えた。



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