絶対王子は、ご機嫌ななめ
口を尖らせてひとり憤慨していると、頬に添えられた手のひらに顔を元の位置に戻された。
再度重なった政宗さんの瞳は、初めて会った時と同じ切れ長の目。
あの時はちょっと冷たそうに感じたけれど……。
「キス」
「うん?」
「柚子からキスして」
なんですって!? そんな恋愛上級者がするようなこと、私にできるはずないじゃない!!
「無理です」
「あぁ~、そうか。柚子は俺が、この大会で負けてもいいんだな?」
「はぁ? どうしてそうなるんですか? それとこれとは話が……っ!?」
別! 脅迫するなんて、やっぱり政宗さんですね!
そう言ってやりたかったのに、口の自由を奪われて政宗さんのなすがまま。
私からキスしろって言ったくせに……。
けれど政宗さんに弱い私は、抵抗できずに政宗さんの甘い唇を受け入れる。
「時間だな」
クラブハウス内に試合スタートの案内放送が流れると、政宗さんの唇が名残惜しそうに離れた。
「帰りは俺が送るから、勝手に帰るなよ。って言うか、今日は帰さない」
「か、帰さない!?」
政宗さんの妖艶な瞳に、耳をくすぐる低音ボイス。
頭の中ではおかしな事を考えて、経験がない私はクラクラめまいに襲われる。
「やっぱり面白いやつだな、おまえは」
「面白いの一言で片付けないで下さい。人の気も知らないで……」
「そう怒るな」
政宗さんは大きな手を私の頭の上に乗せると、くしゃくしゃっと掻き乱す。
「もう!」
「じゃあ、行ってくる」
ずっと抱きしめられていた身体が離されると、少しだけ寂しくなってしまう。
でもそれを政宗さんに悟られないように笑顔を見せると、政宗さんはもう一度私の頭を撫でてから部屋を出て行った。