絶対王子は、ご機嫌ななめ

  本当の彼


「柚子ちゃん、どこにいたの? トイレから全然帰ってこないから、心配しちゃったよ」

政宗さんと別れた後、本当にトイレに行って慌てて二人のもとに戻ると、べそ顔の智之さんと怒った顔の円歌ちゃんが立っていた。

「ごめんなさい。トイレ激混みで……」

「へぇ~、激混みね。柚子に嘘をつかれるとは、私もまだまだね」

「ま、円歌ちゃん?」

さすがは円歌ちゃんだ。と言うより、私の演技がヘタだったのか?

どっちにしろ、円歌ちゃんにはバレてる。

「嘘ってどういうこと?」

そして智之さんには全くバレていないみたい。

「智之さん、ホントに分からないの? 見て、柚子のこのニヤけた顔。柚子がこんな顔になるのは……」

「あ、分かった! 政宗さんと密会してた!」

「ちょ、ちょっと智之さん! そんな大きな声で、言わないでくださいよ」

私たちのまわりにいたギャラリーの視線が、一瞬で集まる。しかも密会なんて言葉が出てきたから、みんな不審顔だ。

でも実際に密会していたわけだから、どう弁解していいのか……。

「まぁいいわ。柚子の顔を見て、どうやらうまくいったみたいだし。口紅、取れちゃってるわよ」

「嘘!? もう円歌ちゃん、そういうことはもっと早く教えて!」

私は慌てて口を隠すと、大急ぎでトイレへと逆戻りした。



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