絶対王子は、ご機嫌ななめ

「曽木様、お部屋の方ですが。お申し付けの通り、スイートルームにお荷物を移動させておきましたので」

「急に無理を言って、すみませんでした」

え? スイートルーム?

ふたりの会話を聞いて、少しだけ解けていた緊張がよみがえる。

スイートルームって、あのスイートルームだよね?

一般の客室よりもグレードが高い部屋で、そのホテルの最高級の部屋。一度は足を踏み入れてみたいとは思っていたけど……。

まさか今日、そんな日が訪れるなんて。誰が想像した?

それでなくても緊張マックス、口から心臓が飛び出てきちゃいそうなのに!!

政宗さんに握られている右手が、じわっと汗ばみ始める。

「柚子、行くぞ」

「は、はぁい」

突然名前を呼ばれて、おかしな声が出てしまう。

恥ずかしさから少し俯くと、政宗さんの笑い声が聞こえて顔を上げた。

「緊張してる柚子を見てるのも悪くないな」

そう言って、意地悪な顔を見せる政宗さん。

「バ、バッカじゃないんですか!?」

なんて言い返しても、笑い飛ばされておしまい。

でもね……。

今日の政宗さんから発せられる声は、優しさに満ち溢れていて落ち着く。今は手を繋いでいるだけなのに全身を抱きしめられているような気分になるのは、繋がれた手から伝わる熱のせい?



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