絶対王子は、ご機嫌ななめ
「智之さん、どうかしたんですか?」
「いや。ちょっと柚子ちゃんと話がしたいと思って」
「私と、ですか?」
いつもはチャラい智之さんがいつになく真面目な顔をして言うもんだから、「うん」と頷いてしまった。
自動販売機前の談話スペースにある椅子に座ると、智之さんから缶ジュースを受け取る。
「はい、これ僕の奢りね」
「ありがとうございます」
智之さんが私に話ってなんだろう。智之さんのことだから、口説かれる? なんてちょっと思ったりもしたけれど。どうもそんな感じではなさそうだ。
昼ごはんを逃し喉の乾いていた私は、智之さんからもらったジュースを一口飲む。それは私の空きっ腹をゆっくり満たしてくれて、ほっと一息ついた。
「弁当、全部政宗さんに食べられちゃったんでしょ?」
「あはは、見てたんですか? あんなに美味しそうに食べるの見たら、誰だって母性が働いちゃいますよ」
「母性ねぇ……」
智之さんは呆れたようにそう一言呟くと、私の隣に腰を下ろす。
あれ? 私、なんか変なこと言った?
首を傾げながら智之さんを見ると、ふっと笑った智之さんが私の頭をポンと撫でた。
「しょうがないか。柚子ちゃんは、キスもまだだったもんね?」
「キ、キスって……」
昨日ドアを開けたお礼にキスを迫られ、動揺した私は智之さんの『キスしたことないの?』の問いに『私だってキスくらい』と言い返したんだけど。
キスの経験ないこと、バレてた!! しかも頭ぽんぽんなんて、子供扱いまでされちゃって。
超恥ずかしい……。
顔を見られたくなくて両手で隠すと、智之さんが大きな声で笑い出した。