絶対王子は、ご機嫌ななめ

「やっぱり柚子ちゃんは可愛いなぁ。政宗さんにはもったいないよ」

「なんでそこで、政宗さんが出てくるんですか?」

もったいないとか、私は政宗さんの彼女でもなんでもないのに。このままだと、彼の小間使いになるのが関の山だよ。

はぁとため息をつくと、椅子にもたれかかる。

「政宗さん、昔はあんなんじゃなかったんだ」

「昔って?」

「プロだった頃。その頃は笑顔が素敵な“スマイル王子”なんて呼ばれて大人気だったんだよ。今の政宗さん見てたら、想像できないでしょ?」

スマイル王子!? あの政宗さんが?

想像できないどころか、あり得ないでしょ!!

信じられなくて大きく頷くと、智之さんは「ねっ」と苦笑してみせた。

「人との付き合いもあまりしなくなって、喋るのも僕と円歌ちゃんくらい。ああでもスクールの生徒さんたちには、ちゃんと教えてるけどね」

まあそこは仕事だから、そうあるべきだとは思うけれど。

あの政宗さんが、スマイル王子……。

人は見かけによらないって言うけれど、やっぱり今の彼からは想像できない。彼に就職したわけでもないのに、命令されてこき使われて。しかも大事な弁当まで食べられて。

覚えておきなさい。食べ物の恨みは恐ろしいんだから!!

「でも意外だったなぁ」

「何がですか?」

「僕と円歌ちゃん以外の人とは関わろうとしなかった政宗さんが、何故か柚子ちゃんには執着してるというか。そばに置こうとしてるんだよね」

「執着っていうか、あれは私をメイド扱いしたいだけじゃないかと思うんですけど。いわゆる召使い?」

「まあ、そういうことにしておこうかな。僕もまだ、諦めるつもりないしね」

そう言って、アイドル顔負けの笑顔を見せる智之さん。



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