絶対王子は、ご機嫌ななめ
何を諦めるつもりがないって言いたいんだろう。
え? もしかして。智之さんも私をメイドにしたいって言うんじゃないでしょうね?
いや、この人ならあり得る。『これ着てくれたら、僕、もっと嬉しいんだけど』とか言ってメイド服持ってきて、コスプレショーさせられたりして。
いやいや、それ絶対に無理!!
いくらアイドルみたいに可愛い顔をしていても、変態はお断り。
だったら、“絶対王子”の政宗さんのほうが、数段マシと言うもんだ。
「じゃ、じゃあ私はこのへんで。仕事戻りますね」
「え、そうなの? もっと話がしたかったんだけどなぁ」
私はしたくありませんから!! とはさすがに、声に出しては言えないけれど。
心の中でそう呟くと、軽く会釈をしてその場を離れた。
それにしても、智之さんには困ったもんだ。でも政宗さんの話が聞けたのは良かったかも。
「スマイル王子……」
独り言のように呟くと、政宗さんはどんな笑顔を見せるんだろうと本当の笑顔が見たくなってきてしまう。
あ、でも今朝、円歌ちゃんには笑顔見せてたような。
なんで? もしかしてあのふたり、付き合ってるとか?
と思ったと同時に、突然チクリと痛む胸。
何、この胸の痛みは?
初めて感じる痛みに、動揺が隠せない。そしてその痛みが強り、ぎゅっと左胸を押さえた。
円歌ちゃんと政宗さんが付き合ってると思ったら、急に胸が痛むなんて。私やっぱり、政宗さんのこと……。
でも彼は私のことを、召使い程度にしか思ってないはず。それに相手が円歌ちゃんじゃ、勝ち目はゼロに近い。
恋に気づいたばかりなのに、その恋にすぐに破れるなんて。
「仕事、頑張ろう」
そう。きっと仕事が、政宗さんへの思いを消してくれるはず。
がむしゃらに働いて、新しい恋を探さなくっちゃ。
俯きかけた顔を上げると、肩でひとつ息をついてからフロントに向かった。