絶対王子は、ご機嫌ななめ

ボクサーよろしく拳を握って構えると、政宗さんは呆れたようにため息をついた。

何よ、そのため息。

ああ言えばこう言う。売り言葉に買い言葉。いつまで経っても堂々巡り。だったら戦うしかないでしょ?

でも政宗さんは運転中で。私の手を左手で軽くあしらうと、その手をハンドルへと戻した。

「この突き当りは、どっちに曲がればいい」

「あぁ、そこは左で。曲がった直ぐが家なんで」

「了解」

何よその、大人の対応。私はまだ興奮冷めやらぬって状態なのに、自分だけ涼しい顔しちゃって。

ムカつく!!

政宗さんは左にハンドルを切ると、すぐにブレーキを踏む。何もそんな急に止まらなくても政宗さんを見ると、何か様子がおかしい?

「なあ柚子。あそこに立ってるのっ?て、おまえの母親か?」

「え?」

政宗さんが目を凝らして見ている方に顔を動かせると、暗がりの中、門のそばで立っている母親を見つける。

な、なんでお母さん、そんなところに立ってるわけ? まさか私を待ってるとか?

車の時計を見ると、二十三時を回っている。

しまった。最近はこんなに遅くなることもなかったし、遅くなるって連絡するの忘れてた。

「あ!!」

「なんだよ、いきなり大声出して」

「私、車通勤だった」

練習場の駐車場に、車置きっぱなしじゃない。お腹がいっぱい過ぎて、そのこともスッカリ忘れてた。


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