絶対王子は、ご機嫌ななめ

「なんだ、そんなことか」

「そんなことって……」

「で、あそこにいるのは、おまえの母親で間違いないんだな?」

「そうですけど……」

ここまで来て、嘘を言っても仕方がない。別にここで母親がバレたところで、何も問題ないわけだし。

そんなことより明日の朝、車がない方が余程問題なんですけど。

「おい、さっさと車から降りろ」

「あ、はい、すみません。今日は奢ってもらった上に送っていただき、ありがとうございました」

車のことは後から考えることにして急いで車から出ると、何故か車のエンジンを止めた政宗さんも車から降りてきた。

うん? なんで政宗さんも降りるの? 

わけがわからず政宗さんを目で追うと、母親に向かってすたすたと歩き出した。

はあ!? なんで? どうして政宗さんが、私よりも先にそっちへ向かうの!

一抹の不安を覚えた私は、慌てて政宗さんの元へ走り出す。

「政宗さん、ちょっと待って!」

そう呼び止めたのに、政宗さんは足を止めることなく母親の前に立ちはだかった。

「お母さん、こんばんは。私は柚子さんと同じゴルフクラブでレッスンプロとして働く、曽木政宗と言います。柚子さんにはいつもお世話になっているので、今日はそのお礼にと食事に誘ったんですが、こんな時間まで彼女をお借りして申し訳ありませんでした」

え? これがいつもの政宗さん? そんな紳士な態度を見せるから、ほらお母さんが驚いて口開けっ放しじゃないの。

どういうつもりでこんなことをしたのかはわからないけれど、お母さんが勘違いしないことだけを祈ると隣に立ち、どうしたものかとため息をついた。



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