絶対王子は、ご機嫌ななめ

「柚子、あなたちゃんとお礼はしたの? すみません、この子常識のない子で」

「お母さん!」

何わが子のことを“常識ない”なんて言っちゃってるの? お礼くらい、ちゃんと言えるわよ!

お母さんの顔を見ると、その目がハートになっているのに気づく。

はあ!? どうしてお母さんが、政宗さんを見てトロンとした目をしちゃってるの?

そりゃまあ確かに、顔はいいと思うよ。背もスラリと高いし、髪型も決まってる。誰が見たってイイ男だよ。でもこの男の本性は、私をメイドのように扱う俺様野郎なんだからね!

と喉まで出かかって、それをゴクンと飲み込む。

お母さんの前で喧嘩をするわけにはいかないし、奢ってもらった手前文句も言いにくい。

ここはもう一度お礼をしたほうが無難だと、政宗さんに向き直った。

「今日はありがとうございました。わざわざ送って頂いて、すみませんでした」

「ああ。柚子明日だけど、一緒に出勤するぞ。七時半に迎えに来るから用意しておけ。いいな?じゃあお母さん、私はこれで失礼します。おやすみなさい」

「あ、はいはい。今日はありがとうございました。気をつけて帰ってくださいね」

政宗さんは車に乗り込むと、頭を下げてから車を走らせた。

一緒に出勤するぞ──…

な、何よ、彼氏みたいなこと言っちゃって。私が車を忘れたって言ったから、そう言っただけ。政宗さんの言葉に深い意味は無いとわかっているのに、鼓動が勝手に速くなる。




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