絶対王子は、ご機嫌ななめ

政宗さんの車が駐車場に着いたのは、ちょうど八時。

「ちょっと遠回りしすぎた、悪い」

そう言うと、政宗さんはさっさとクラブハウスへと行ってしまった。

「そんな~」

遠回りしてくれたのはありがたいけれど、寝坊した私が悪いとはいえ車で十五分で着くところを三十分近く掛けるなんてどういうこと!

慌てて更衣室に駆け込むと、円歌ちゃんを見つけて近づいた。

「柚子、十五分から引き継ぎだよ? もう少し早く来るようにって、いつも言ってるでしょ」

「ごめんなさい。昨晩からいろいろありすぎて、いっぱいいっぱいで」

「へぇ~。いろいろって何か興味あるんだけど?」

円歌ちゃんはニヤッとすると、私の鼻をきゅっと摘む。

「円歌ちゃん、痛い」

「柚子、恋してるでしょ?」

「へ?」

「女の顔してる」

───女の顔。

円歌ちゃんの言葉に、昨日のキスが蘇ってくる。途端、頬に熱を帯びるのを感じると、弾けるように円歌ちゃんから距離をとった。

「なんで逃げるの?」

「べ、別に逃げてないし」
円歌ちゃんの不審そうな顔に怯むと、ズルズルと後ずさる。そのままゆっくりと追い詰められると、更衣室の壁に背中がぶつかった。



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