絶対王子は、ご機嫌ななめ
フロントに立ってれば、嫌でもあっちこっちに移動する政宗さんの姿が眼に入ってしまう。そのたびに昨日のキスを思い出してしまう私は、赤面したり動揺したり。仕事と二重に忙しい。
「橘さん、昼休憩入って」
仕事モードの円歌ちゃんに指示されると、バイトの女の子と入れ替わる。フロントから出ようとしたところで円歌ちゃんに「今日も頑張って」と耳打ちされると、円歌ちゃんの顔を睨みつけた。
もういい加減、からかうのはやめてほしい。政宗さんとお昼を一緒に食べることは仕事の一環だと思っているのに、円歌ちゃんにそうやって言われるたびにどんと気持ちが重くなってしまう。
「……行ってきます」
円歌ちゃんに見送られながらフロントを後にすると、政宗さんが待っているであろう休憩室へと向かった。
「今日のお弁当は何かな?」
そんなことを考えると重くなった気持ちも少しは軽くなって、お腹が空いている私は足も軽やかになる。
休憩室の前に到着すると、ドアをノックする。いつもならこの後『おう、開いてるぞ』と政宗さんの声がするのだけれど。
あれ? 政宗さん、いないのかな?
帰ってこない声に首を傾げていると、いきなりドアが勢いよく開いた。