絶対王子は、ご機嫌ななめ
この男の人、政宗って言うんだ。
ふたりは一体どんな関係? なんて、今はどうでもいいことを考えてしまう。
「この車、ご作動で鍵が閉まったらしい。開けてやってくれ」
「ふ~ん。で、この子は政宗さんの何?」
茶髪くんは私の顔を覗きこむようにグッと身体を近づけると、にこりと微笑んだ。
「可愛いね。君、名前は? 歳はいくつ?」
「あ、えっと。橘柚子、二十二歳です」
「柚子ちゃんかぁ。名前まで可愛いね。二十二歳って、スッゴク若いじゃん。僕の名前は、稲垣智之(いながきとしゆき)、二十六歳独身でーす」
「は、はぁ……」
なんなんだ、この人? チャラ男? ただの空気よめない人?
私もなんで素直に、年齢まで答えちゃってるのよ。
彼のペースに引き込まれて何がなんだかわからないでいると、政宗と呼ばれた男の人が茶髪くんの身体を私から引き離した。
「智之、いい加減にしろ。コイツは俺のちょっとした知り合いだ。早く開けてやってくれ」
「え? あのぉ……」
ちょっとした知り合い? しかも“コイツ”って。
全然知らない奴だと言えばいいのに、なんでそんなことを言ったんだろう?
顔を見ても、やっぱり顔色一つ変えない彼からは何もわかることはなくて。
でも全然知らない奴と言われるより嬉しくて、少しだけ頬が熱くなった。
「はいはい、わかりましたよ。柚子ちゃん、ちょっと待っててね」
茶髪くんはそう言って私にウインクすると、自分の車の中から道具箱らしきものを出してきた。そして見たことのない工具を手にすると、私の車に近づいた。