絶対王子は、ご機嫌ななめ
「ホント柚子は、昔からそそっかしいね」
円歌ちゃんは呆れながらも手を動かし、包帯を丁寧に巻いてくれる。
「だって……」
「だってじゃないでしょ。どうしてこんなことになったの?」
「それは……」
政宗さんが気になって、よそ見していたから───
そう言えばいいのに、口ごもってしまう。
円歌ちゃんと政宗さんの関係がよくわからない。
もしふたりが付き合ってるとしたら、政宗さんが私に“キス”するわけないよね?
でも政宗さんの円歌ちゃんに対する態度は、明らかに私に対するものとは違って。心を許しているというか、信頼しているというか。太い絆で結ばれている気がしてしょうがない。
それは円歌ちゃんも一緒で、ツーカーの仲と言うか阿吽の呼吸と言うか。
やっぱりふたりの関係は、黒に近い灰色って感じ?
だったら私の気持ちを円歌ちゃんに知られる訳にはいかない。お互い気まずい雰囲気になるのだけはごめんだ。
「覚えてない」
「はあ!? 覚えてない? まあ柚子らしいけどね。はい、できた。仕事終わったら、病院行ってきなよ」
「……はい」
嘘をついたのがちょっとだけ後ろめたくて、円歌ちゃんの顔が見えないように俯くと小さな声で返事をした。