絶対王子は、ご機嫌ななめ

私の勤務体制は、朝八時半から夕方五時半まで。でも朝は八時までには出社するし、夕方も五時半に帰れたことはない。

でも今日は定時になると円歌ちゃんから「橘さん。今日は上がって病院行ってらっしゃい」と言われると、仕事を切り上げてクラブハウスを後にした。

昨日置きっぱなしにしていた愛車に向かって歩いていると、ネット越しにゴルフクラブ内を覗いている男性が目に入る。

あれ、あの人って……。

横顔しか見えないけれど、見覚えがある顔に足を止めると、その男性がゆっくり振り向いた。

「あ……」

昼休憩の時に政宗さんのところにいた人だ。

あの時の印象が良くなかったからか、身体に緊張が走る。

「ああ君か。昼間はどうも」

男性は人の悪い笑みを浮かべながら歩き出すと、私の目の前に立ちはだかった。

彼の威圧的な態度に、身体が動かなくなってしまう。

「何もそんなに固くならないでもいいのに。俺は優しい人間だよ」

そう言って私の肩に手を乗せると、グイッと顔を近づけた。

恐怖心から、身体がビクンと震える。

本当に優しい人が、そんな作り笑顔を見せるはずがない。

危険を察知した身体は、肩に乗った手をとっさに払いのけた。



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