絶対王子は、ご機嫌ななめ
「イタッ……」
払いのけた瞬間火傷した部分に彼の腕が当たってしまい、痛みに顔をしかめる。
「あ~あ~ダメじゃん。包帯が巻いてある方の手で、そんなことしちゃ。でもこれどうしたの? 昼会った時はなかったよね?」
顔を覗きこまれて、その近さに慌てて顔を背けた。
「あ、あなたには関係ないですから」
「関係ない……か。曽木と同じこと言うんだな。あんた、ホントに曽木の彼女じゃないの?」
「違います」
そうだったら嬉しいけれど……。
「ふ~ん……。じゃあ本命は、安西円歌か」
男性はそう言うと、ひとり首をひねって何かを考え出した。
私はといえば───
突然彼の口から円歌ちゃんの名前が出てきて、ぎゅっと胸が痛くなる。
この人は、一体何者? 政宗さんとはどういう関係? 何を知っているというの?
男性から一歩距離を取ると、その顔をキッと睨みつけた。
「あなた、政宗さんとはどういう関係なんですか?」
私の顔を見るなり大声で笑い出すと、男性はおもむろに胸ポケットから小さな紙切れを取り出した。
「そっか、まだ自己紹介してなかったね。俺はこういうものです」
紙切れを私に向かって差し出すと、またあの作り笑顔を見せる。
「スポーツライター?」
紙切れだと思っていたのは男性の名刺で、肩書の下には“矢部秋良(やべあきら)”と書いてあった。