絶対王子は、ご機嫌ななめ
「そう。新聞や雑誌なんかに、フリーランスでスポーツに関する記事を書いてる。曽木とは、あいつがプロだった時からの付き合いだ」
「プロの時からの……」
そうなんだ。
でも政宗さんの感じからすると仲の良い付き合いをしていたとは思えないし、私を見る目も胡散臭い。
ここにいたのも、もしかして私を待っていたとか?
手元の名刺を見ていた目線をゆっくり上げると、矢部さんとバッチリ目が合ってしまい、「うおっ!」とあられもない声を出してしまった。
「柚子ちゃん、キミ面白いね」
え? なんで名乗ってないのに、私の名前知ってるの? やっぱりこの人、胡散臭い。
矢部さんに疑いの眼差しを向けると、彼はククッと肩を震わせて笑い出した。
「な、なんですか?」
「……だって、すごい顔して俺の顔を見るからさ。なんで私の名前知ってるの?とか思ったんでしょ。曽木が『柚子』って呼んだの覚えてない?」
「あ……」
そういえば休憩室のドアのところで矢部さんに会った時、政宗さんに呼ばれたかも。
「そう、でした」
アハハと笑ってごまかしたのに、その場がしんと静まってしまう。
矢部さんの顔を見れば、さっきまで笑っていた顔は、いつの間にか真顔になっていた。