絶対王子は、ご機嫌ななめ
「お、ラッキー。窓、ちょっとだけ開いてるじゃん。チョー楽勝」
あはは。やっぱり茶髪くん、人は良さそうだけどチャラ男だ。
でも道具箱の中を見るといろいろな工具が入っていて、『この人、何者?』と疑いたくなってしまう。
「はい、いっちょあがり!! 柚子ちゃん、ドア開けてみて」
「え? もう開いたんですか?」
車に近寄り、ドアを開けてみると……。
「開いた!!」
「どう? 俺ってスゴいでしょ?」
「はい、ありがとうございました。このお礼は……」
「チューでいいよ」
「チュ、チュウ!?」
「そうキス。あれ? 柚子ちゃん、キスしたことないの?」
「し、失礼な!! 私だってキスくらい……」
あるわけない。生まれてこの方、キスどころか恋人だっていた事がないのに……。
好きな人はいたこともあったけれど、自分からは告白できず。いつも遠くから見ているだけが関の山。
強がってみたものの、こんな場合どうしたらいいのかわからなくて。
キスなんて出来るはずないし。でもキスくらいって言っちゃったし……。
困ってしまい目を泳がせていると、政宗と呼ばれた男の人が私とチャラ男くんの間に立ちはだかった。
「礼はいい。これからは気をつけるように。じゃあ智之、行くぞ」
「あ、でも……」
やっぱり何かお礼をと思って、声を掛けようとしたけれど。
「ちょ、ちょっと政宗さん!! そんな引っ張らなくても。柚子ちゃん、またねぇ~」
政宗さん(って心の中では呼んでもいいよね?)は茶髪くんの腕をガシッと掴み、クラブハウスの方へと行ってしまった。