絶対王子は、ご機嫌ななめ

途中では誰にも会うことなく無事倉庫に到着すると、急いで中に駆け込む。バタンと大きな音を立ててドアが閉まると、そこに背を当てずるずるとしゃがみこんだ。そして膝を抱え身体を小さく丸めると、誰にも聞こえないように声を押し殺して泣いた。

ひとしきり泣き終えると、鼻をグズグズ鳴らしながら立ち上がる。

いくらショックなことがあったとはいえ、今は仕事中。早くおしぼりを持ってフロントに戻らないと、明里ちゃんたちに迷惑をかけてしまう。

そうは思ってはいても身体は鉛のように重く、なかなか言うことを聞いてはくれない。それでも何とか棚からおしぼりがぎゅうぎゅう詰めに入った袋を取り出すと、それを台車の上に載せた。

それを押してドアのところまで行くと、壁掛手洗器の上にある鏡に映る自分の顔が見える。

泣きはらした目は赤く、目元の化粧は落ちてしまっていた。



< 64 / 222 >

この作品をシェア

pagetop