絶対王子は、ご機嫌ななめ
「ヒドい顔」
化粧をしていたって大したことないのに、これじゃあ見せられたものじゃない。
きっと円歌ちゃんは、スッピンでも綺麗なんだろうな……。
私になんか一分の勝ち目もない。そんなこと前から分かってたはずなのに、政宗さんがキスなんてするから、もしかしたら政宗さんも私のことを……なんて自惚れていたのかもしれない。
「はぁ……」
大きなため息を漏らすと、台車に手を掛け倉庫を後にする。
フロントに行く前に女子のロッカールームに寄ると、簡単に化粧を直した。大して変わらない顔でも、お客様の前に立つ身としては泣きはらした顔のままではいけない。
「これで大丈夫……かな」
ロッカーの小さな鏡で角度を変えながら顔を確認していると、場内のスピーカーから十五時を知らせる音楽が流れだした。
今日は円歌ちゃんがいないから定時には上がれないけれど、順調良く行けば十九時には仕事を終えられるはず。
あと四時間……。
あのふたりは、あのままどこへ行ったのか。今どこで何をしているのか。気になることは山ほどあるけれど、今は仕事に集中して無心で働こう。そうでもしないと、また泣きそうになってしまう。
大きく息を吐き気持ちを落ち着かせると、小さな鏡に映る情けない顔を笑顔に変えた。