愛しいカタチの抱きしめかた
ようやく作業が終わったとき。ホチキスの芯を補充しながら、間宮くんがおもむろにその人の話題を出した。
「先日。ボクはそんな気にならなかったんだけど、日紫喜のために、じいさまの見舞いへ行ってきたよ」
「っ、洋助さん、お具合は?」
「行動はある程度制限されてしまうから、健康面は問題なく。けれど弱っているように感じたよ。でも笑っていた。心を遠くへ馳せながらなんだろうね」
「そう。――、黒板……消してなかったね」
積み上がったプリントの束を間宮くんに押し付けて、黒板いっぱいのホームルームの名残を消しに向かった。
間宮くんから返事はなかったけど、プリントを整える音と、机を元に戻すそれが背中に響く。
わたしは乱雑に黒板消しを扱う。隅っこのほうに消し残しがあったけど無視をする。
「信じるよ。日紫喜の涙スイッチはじいさまだって」
背後から手が伸びてきて、持っていた黒板消しは奪われていった。
「……」
「消し終わるまでに泣き止めるかい?」
落ちる涙の粒。
つむじの上のほうから、優しい声。