愛しいカタチの抱きしめかた
……、えっと……。
「何?」
突然。
突然そんなことを話されても……。もしかして、聞いてほしい?
「中学二年の夏休み、じいさまの家に家族で出掛けた。暇で暇で、縁側でいつの間にか眠ってしまって、目が覚めたら――過去にタイムスリップしていてね。ああ。空はもう、暗くなっていたなあ」
「はっ!?」
「うん。順当な反応だ。――ボクはそこが過去だと気付かずに辺りを散歩した。そこでね、ひとりの女の子と出会ったんだ。同じ歳くらいの、物怖じしない人懐っこい子でね、一緒に花火をしたんだ。ボクは僅かな時間で、一瞬で、恋に落ちた。別れ際名前を訊ねて違和感を覚えて走って帰った。途中転んで意識を失い、再び目覚めたら縁側の下にいたよ。そこは、ボクのいる時間、現代だった。……もう、その子とは、会えなくなったよ」
「……」
「仏壇へと走ったね」
「えっ、仏壇?」
「そこにはもうなかったから、じいさまを急かして昔の写真を出してもらった。――じいさまの昔の姿の隣で、ボクの好きな人が笑ったりご飯を食べたり、白無垢だったり、していたよ。年老いたその子にさえも、ボクはもう会えない。会えないほうが良かったのかもしれないけれど」