愛しいカタチの抱きしめかた


熱かっただろう痛かろうと、クラスの半分が共感をしてくれる。それは当然女子ばかりで、コテを使ったふうもない男子たちは訳が分からないといった様子で眺めている。


こんな人数相手の嘘は苦手で、自分の曖昧な笑顔 がひきつっているのを実感しながら、共感してくれた友達たちに申し訳なく思っていると、


「キスマークとかなんじゃねーの?」


少し離れたところから声が飛んできた。




……時期が、ちょっと悪かったのかもしれない。


隣のクラスの子が二人、数日前首に絆創膏を貼っていた。友達がふざけてその絆創膏を剥がしたら、そこにはキスマークがあって。


二人のうちの一人が晒されただけだったけど、二人は、付き合っていたものだから……。


剥がされたのは彼氏のほうで、同じクラスの彼女は、そこから逃げ出してその日は保健室から下校してしまったらしい。


何もそんな目立つところに、という思いはきっと皆にあったけど、行き過ぎたからかいを咎める声もあって、もうその出来事を言うなんてこともすぐになくなったのだけど――。




ああそうか。こういうふうに、色めくことは沈澱したまま何処かに残ってしまって、こういうふうに持ち出されてしまうのか。


……何だか、無性に腹が立った。

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