愛しいカタチの抱きしめかた


一階までひたすら階段を降りる。金子さんの手をとろうとしたけど拒否された。


廊下を右に曲がり、普段閉じられている裏庭への扉を一応確認してみると。


――開いてる。


防犯上、解錠されていることなんて殆どないそこを通り抜けると、開校当初からあるという桜の大木が。校舎の建て替えで裏庭になってしまったけれど、昔は、生徒たちを迎える役目をはたしていた。


「本当に、大丈夫?」


「しつこいです。あなたは」


「……」


「――そろそろ頃合いでしょうから、行きましょうか」


頃合い……意味を理解する間もなく、わたしたちは上履きのまま桜の下へと誘われる。見上げても、まだ芽吹きもしない枝だけの桜は、胴の部分を藁で被われていて、またやってくる春を待つ。


「満開になったら、また来ようよ」


図書室だけの金子さんが、この場所からでいいから踏み出せればと思った。わたしなんかじゃ無理かもしれないけど、この言葉と桜が、きっかけになってくれればいいと。


けど、見上げたままで首を横に振り、金子さんは言った。


「それは、決して叶わぬ願い事なのです」


金子さんは、言った。


「言いました。私は、図書室を出たら消えてしまうと」


自分は、『--------』、だと言った。

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