愛しいカタチの抱きしめかた
「バカッ。また立ち眩むんだからっ!」
「平気平気」
手を握ったまま昇降口に滑り込んだわたしたちを、数人の生徒たちが遠巻きに囲む。まだピークの登校時間じゃないのは助かったけど、見られていることには変わりない状況に無い逃げ道を探す。
別に、恥ずかしいとかじゃない。助けてくれた手に対して、あんな視線を投げてくるのに腹が立つだけだ。
なのに百瀬は怒らない。気にした様子は見せず、そのままわたしたちは職員室へ向かった。
「おじいさんのご自宅へ連絡してもらおう」
昇降口から覗いたおじいさんは、この前と同じ、校門という結界の外で佇む。
「うん」
「もうずいぶん暑いしね。心配だ」
……心配だけをしていたわたしは、そのあとをきちんと考えられる百瀬に頭が下がる。
自分のことで手一杯になると、途端に、他者へは気持ちを向けられなくなる。でも、たとえ余裕があったとして、わたしは、百瀬みたいに出来ただろうか。
自分のことだけど、わからなかった。
現場を囲っていた数人の中には知っている人もいた。なんとなく、すぐには教室へ行きづらくて、図書室へ非難することにした。
後ろには百瀬がついてくる。
「……なんで百瀬も一緒なの?」
やっぱり、あの視線は嫌だった? 気にさせちゃった? たから百瀬も……。
「僕のホームにみーちゃんが来るのさ」
「それは……だね」