愛しいカタチの抱きしめかた
――……
ふたり分の苦しそうな息遣いだけが響くそこはもう、学校からずいぶん離れた場所だった。
「もう歩こう。みーちゃん、大丈夫?」
「もっ、百瀬が平気ならわたしに問題あるわけないでしょっ」
なんでこんなことを言ってしまうんだろう。悲しい顔をしていたように感じたおじいちゃんを見て動揺した? 握られた手が恥ずかしくなった気がして誤魔化した、のかもしれない。
違う。百瀬の力が強すぎただけだ。そんなの落ち着かないに決まっている。
なんだか、どれも真実みたいで、そうでもなくて落ち着かない。
少しふらついた足取りを隠そうと、違うことをしようと思った。いつも通りの帰り道になってしまえば、わたしのおかしな様子だけが目立ってしまいそうだったから。
「――ねえ、百瀬。今日はこっちの道を通ろう」
田んぼを分ける道はとっくに通り過ぎていて、ここからは、いつもの帰路の他に、もう幾つか選択肢が存在する。わたしが指したのは、ちょっとした林道だった。といっても、あまり整備されていない雑な林道。けど、住宅街へ抜けるには一番近道でもあった。
心のざわつきは消えてくれなくて、わたしは一刻も早く家に帰りたかった。
「そっちは危ないって」
「大丈夫だよ」
そう。わたしは早く大丈夫になりたい。
けど、百瀬の声が少し怒っているような気がして振り返った。
「もう暗くなる。なんか焦ってて状況を色々見落としてるよ。余計に危ないから駄目」