悪魔の目
幼稚園へまでの道のりは、憎しみの感情に苛まれ、あまり覚えていない。

堂島幼稚園入園式

そう書かれた立て看板が見えてきた。懐かしい風景。21歳の僕はほとんど忘れかけていたが、その風景が全てを思いださせた。

鉄棒や、シーソー、ブランコなど赤や黄色に塗られた色とりどりの遊具。校庭には、同じく入園式を控えた児童とその父兄が写真を撮ったりしていた。

教室の窓には、ひらがなで

入園おめでとうの

文字が張られており、桜の花びらの形に切り取られたピンク色の画用紙に、一文字ずつ丁寧に書かれていた。


何がおめでとうだ、馬鹿野郎。そう、心の中で呟いた。

前から歩いてくる、見覚えのある男の姿があった。

…あいつだ。

三島直幸

母親を惨殺する張本人、悪魔の男だ。

背はざっと180cm以上はあるだろう。だが、猫背のため、そこまで長身に見えず、痩せこけた初老。臙脂色のスーツに身を包み、保育士には似合わない無精髭。細く、つり上がった目に、丸いだんご鼻。笑うと口角が右側だけ上がる。

無精髭を常に触っているという、癖があった。

僕は思わず、ギリっと歯ぎしりをして、三島を睨みつける。

「おっと、こんにちわ。僕、緊張しているのかな?」

三島は無精髭を触りながら、僕の頭をもう片方の手でポンポンと撫でてきた。

「あら、先生。この幼稚園に入園する事になった、雨宮です。よろしくお願いします。ほら、優太ちゃん、こんにちわ、は?」

「……。」

僕は母親の影に隠れ、じっと三島を睨みつける。

「ごめんなさい、先生。うちの子なんだか今朝から緊張してるみたいで…。」

「いいんですよ。皆最初はそうです。ははは。」
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