悪魔の目
入園式も無事に終わり、母親はまだ教室で同じクラスになった子供の母親達と、猪俣会議をしていた。

相変わらず、僕は拗ねて1人ブランコに座り、漕ぐ事もなく、しきりにうつむいていた。

入園初日にも関わらず、周りの子供達は早くも仲良しの友達を作って、母親のくだらない会議が終わるのを、鬼ごっこやかくれんぼなど、思い思いの遊びをして、楽しそうに待っている。

頭の中では、三島に対する怒りと憎悪で気が遠くなる思いだった。

ふと、顔を上げると、目の前に臙脂色のズボンが見えた。僕の身長からは、三島のズボン位までしか見えない。

「優太くん、どうしたんだい?お友達とは遊ばないのかい?」

「……。」

「先生に何があったか、話してごらん、」

「……んだ!」

「……ん?」

「お前が母さんを殺すんだ!」

「……???」

三島はポッカリ口を開けて、僕を不思議そうに見ていた。

「何を言ってるんだい。優太くん、お熱があるのかな?ママを呼んでくるね。」

三島は、この丁度1年後に殺人を犯すとは思えない程の、優しい笑みで、僕の頭を撫でた。

「母さんに近寄るな!」

僕はまた、泣きたくもないのに、大泣きしてしまった。子供とはこんなにもすぐに泣いてしまうのか。感情のコントロールが効かない。

母親は僕の泣き声を聞きつけ、僕の元へ大急ぎで走ってきた。

「先生!すいません、またうちの子、何かしましたか?」

「いいえ、何もしてないですよ。ですが、ちょっとおかしな事を言うんですよ。ひょっとして、ご家庭で何かありましたか?」

三島と母親はヒソヒソと話し始めた。その横で泣きわめく僕。

「あんた、先生になんて事言うの!」

「うわーーーん!」

母親はまた何度も何度も、僕の頭を掴み一緒になって頭を下げた。
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