悪魔の目
僕が産声を上げた瞬間、母親と父親も歓喜し、声を上げて泣いた。

後にも先にも、3人でこんなにも嬉しい涙を流した事があっただろうか。

母親は入院中、僕の顔を眺めては嬉しそうに微笑んだ。

雨宮優太

誰にでも優しい男になるように、僕はそう名付けられた。でも、名前通りに育たなかった事をなんだか申し訳なく思った。

前世ではわからなかった事だが、僕はこんなにも愛されて生まれてきたなんて。

その日から2人は、僕に色々な事を教えてくれた。言葉、歩行の訓練、美味しい物や、食べてはいけないもの、じっとしている事の大切さ、春には綺麗な花が咲いて僕たちを楽しませ、夏は海へ行って潮干狩りをして、秋はちょっぴり寂しくなるという事や、冬には雪が冷たい事や、3人で雪だるまを作って遊んだ事。

全部が愛おしかった。

でも、僕には成長するにつれて一つ大きな不安の材料があった。それは5歳になる年の春に凄惨な悪夢のような出来事が起きるという事。

母親は僕の目の前で惨殺される。

それを、是が非でも、食い止めねばならない。でも、身体と心は幼児のまま。話すことも伝える事もできない。

話せるようになるまで、あともう少し。僕は必死に話す練習をした。
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