ミク。
「御命令をお願いします。主様」

でも彼は命令をするのでは無く、私に顔をあげさせるとそのまま優しく、ぎゅうっと抱き締めて来た。

『お前も、酷い目に合わされてたんだな‥』

「………………」

『好きなだけここに居ろよ。特別タダで置いてやる。』

にっこり笑って頭にポンポンと触れて来た彼に、

「でも、対価は?」

と聞いてみると、細くて長い指先で前髪をさり気なく掻き上げてきて、チュッと小さな音を立てて甘くそっと口づけてきた。

『これで良いよ。』

彼が、何を考えているのか全く分からなかった。でもそれ以上に急に胸の奧が熱くなってドキドキし出した自分の事が、もっと分からなかった。どうして、突然、こんな事になったんだろうと考えていたらふと、彼にこう聞かれた。

『そぅいえばお前名前は?』

「無いです。」

『……………………』

彼は酷く驚いている様子だったけど私達ロボットにとって名前が無いのは普通の事だ。名前を貰えるのなんてごく一部のロボットだけで、他一般は新型が出たり、飽きたら交換という名の元に捨てられるから名前なんて貰えないのが当たり前だけど何も知らない彼は哀れみの視線を向けてくれる。
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