【完結】 甘い罠〜幼なじみは意地悪女~
「最近、お前機嫌悪くない?なんかあった?」
「別に」
そう言う俺の顔はどこか元気がなかったのだろう。いつも一緒にいる健吾には悟られていた。
「美沙ちゃんと喧嘩でもしたか?」
「はぁ?なんで美沙が出てくるんや?」
「だって、美沙ちゃんのこと好きなんやろ?」
「あいつには彼氏がいるから、そういうこと言うな」
この時なぜ『好きじゃない』と否定しなかったのかがわからなかった。
「なるほどね。美沙ちゃんに彼氏がいて、落ち込んでるんや」
「お前、ちょっと黙ってろ!」
「素直になれよ、准」
健吾を睨み付けると、無言のまま教室をあとにした。
あてもなく廊下を歩いて行き着いた先は、誰もいない屋上だった。
気候のいい時期は、お昼休みともなると誰かしらいる屋上も真冬には閑散としていた。
はぁぁぁ・・・。
ため息を一つつき、真っ白な息が消えるのを見ていた。時折吹く風が心の中まで浸透してくるようだった。
「身も心も凍るとはこのことやな」
ひとり呟くと、その言葉さえも凍えるような風にさらわれていった。
なんでこんなにイライラしてるねん・・・。
原因はわかっていた。でもどうしても、認めたくはなかった。
美沙に彼氏がいること・・・いや、美沙に会えないことが自分を苦しめていることを・・・。