【完結】 甘い罠〜幼なじみは意地悪女~
それにしても、あいつが俺のことを好きだなんて、ありえなくない?
好きな男にあんなこと言わないやろ?
『准、あれ取ってよ!』
『准のくせに生意気!』
『准、まだ泣いてるの?』
『准のチビ!』
『かわいいって言われて調子乗ってるんじゃないわよ!』
『准、遅い!早く走られへんの?』
『准、人参残したらあかんやん!』
ありえないよな。
でも・・・あいつってさ、どんなにきつい言葉を投げ付けても、俺のことを見捨てなかったよな。
『准、まだ痛い?痛いの痛いの飛んで行け〜!!ねっ、治った?』
『准、私が引っ張ってあげるから、手出して』
『准、私が食べてあげるから、人参ここに入れたら?おばさんには黙っておいてあげるから』
『この台に乗ったら、准の方が高いね』
何気に優しかったんやな。
あの頃は気付かなかった美沙の優しさに気付くと、顔が緩んでくるのがわかった。
やばっ、授業中にニヤニヤしてたら怪しまれるし・・・。
嬉しさを隠すように、左手で口元を押さえた。
健吾の言うように、美沙は俺のことが?
「なぁ、健吾・・・俺、今日・・・美沙に告白する」
授業が終わり、帰ろうと俺の席に近づいて来た健吾に宣言した。
「ま、まじで?」
「あぁ・・・やるぞ!」
「頑張れよ!」
気合いを入れるために、健吾は、俺の背中を叩いた。
「俺、美沙ちゃんのこと、さっさと諦めてよかったよ。お前になんて勝てるかよ」
「健吾、お前、本気やったんか?」
「あ〜、一回でいいから女王様に攻められたかったなぁ・・・」
健吾は、腕を頭の後ろで組んで、空を見上げた。
その顔は、どこか寂し気だったことに気付いていた。
健吾・・・本気やったんやな。
半分以上が冗談で占められている話をする健吾は、人気もあったが、軽く見られがちだった。
しかし、その冗談は本当は真面目な自分を隠す手段にすぎないことを知っていた。