藍と蘭
序章
「....そろそろ潮時かもしれんな....」
ここは楼蘭(roran)。かつては独自の文化で栄えた小国。
そして、西に瑛(you)、東に炯(kei)という大国に挟まれていた。
瑛は魔術を生業とする大国であり、国の大勢の人が魔術を使用して生活をしていた。
炯は科学を生業とする大国であり、発展した科学技術で生活をしていた。
この二国の特徴は、自らの文化が最高峰だと譲らない事。それ故に、二国は常に戦争の絶えない国家であった。
一方楼蘭は科学と魔術、どちらも発達させた国で常に中立を貫いてきた。魔術と科学は相容れない、その二国の考えを覆したのが楼蘭である。更に楼蘭には桜蘭武術という楼蘭にしか伝わらない武術も持っていた。
瑛と炯はこの武術を欲した。楼蘭武術があれば敵国を制圧できるからである。そうならない為にも中立を貫いてきた楼蘭だが....。
「陛下、今何と?」
国王、楼蘭王が『潮時』と、そう言ったのである。
「もう我々はどちらか一方に下るしか手はあるまい....残念だが....」
「お言葉ですが、国王陛下」
楼蘭王の言葉を遮ったのは一人の少女だった。名を、劉 藍香(ryiu ran syian)という。
彼女は劉一族の少女で、今年齢14のまだ年端もいかない子供であった。だが、彼女は楼蘭随一の桜蘭武術の担い手でもあったす。
「我らが下るのではなく、我らが二国を制圧すれば良い事。かような大国、我々劉一族の力を持ってすれば雑作もありませぬ」
「だが、しかし....」
「何を迷っております、国王陛下。我々楼蘭の危機でございますよ」
彼女はとても血気盛んであった。それはもう男が顔負けする程の。だが、彼女は彼女なりに国の行く末を考えてのことであるのだ。それを皆分かっているからこそ何も言えないのだ。
「藍香、考えてみろ」
彼女に声をかけたのは楼蘭軍司令官の煉 龍煌(ryien ron fwulan)。彼もまた若く、今年齢19であった。
「それが傲りであったら?」
「傲りなはずがないわ。魔術でも科学でも勝てないなら我々に残るのは何?楼蘭武術でしょ?」
彼女は自分の腕に絶対の自信を持っていた。何故なら今まで負け知らずであったからである。
「藍香。だとしても、国政に一介の武闘士が口出ししていい物ではないだろう」
「どうして」
「お前の一言で国が滅びるかもしれないんだぞ、何の立場もない、お前の一言で」
藍香に現実を突きつける龍煌。その言葉に藍香は言い返す言葉が無かった。
「....失礼します」
「あの子も悪気がある訳じゃないんです....」
「分かっておる....分かっておるから心苦しいのだ....」
藍香の心境は皆にひしひしと伝わっていた。だが藍香の考えを是とする者は一人もいなかった。藍香が将来有望であるからこそ、攻め入った時に彼女を失う事がどれだけの損害か、皆分かっていたからであった。
「....まだ、何か策があるかもしれんな....」