藍と蘭
第一章
「どうして分かってくれないの....」
藍香はやるせない気持ちを発散する為に弓を持ち、少し遠くの森に狩りに出ていた。
ガサガサ....
茂みが動くと同時に弓を構える藍香。
それが、楼蘭を左右する出会いになるとは知らずに。
再び茂みが動いた時、藍香は矢を放った。
「誰だ!!」
茂みに居たのは一人の少年だった。
「人....?」
藍香は目を見張った。人がいるとは微塵も思っていなかったのだ。
「何故ここにいる?」
「貴様こそ何故ここにいる」
質問に質問で返す少年にややイラつく藍香だが、持ちこたえる。
「私は劉 藍香。ここで狩りをしていた。まさか人がいるとは思っていなかったんだ。悪かった」
「俺は颯 鳴琳(sir min rin)。人から逃げていたら....迷った」
「迷ったってアンタ....嘘でしょ....」
呆れた様に言う藍香。その言葉に鳴琳はむっとした表情を見せた。確かにこの森は大して広くはないが、初めて来た人が迷子になるには十分の広さであった。
「....それで、逃げてたってどういう事?」
「....君には関係のない話だ」
「えぇ、そうね。でも、我が国に害ある存在なら....放っておけないわ」
小刀を構える藍香。
「....家の空気が嫌になっただけさ....」
「....」
「期待に、押し潰されそうなんだよ....」
そう言った鳴琳の瞳から一粒の雫が零れ落ちた。そんな鳴琳を見て自分まで悲しくなった藍香は小刀を仕舞い、ゆっくりと鳴琳の足元に座った。
「....アンタも座りなさいよ」
「....藍香?」
「立ってるの、疲れるだろうし....泣き顔なんて見られたくないでしょ」
彼女なりの優しさだった。
「....ありがと....」
「ん」
それから数刻、藍香と鳴琳は趣味などを語り合い、親睦を深めていった。日も傾き始めている。
「帰らなくていいの?」
「帰りたくない....あんな家....」
再び膝に顔を埋める鳴琳。その姿を見て藍香は困り果てた。他国の者を許可なく楼蘭に入れる事はできない。かといって、鳴琳を放っておく訳にもいかなかった。
(どうしたものかしらね....)
思案に耽る。が、これといって案は出てこなかった。