生ものですから本日中にお召し上がりください

「食前酒をお持ちしました」


夫婦の前に、きれいな服を着た女がシャンパンを持ってきた。


「いや、あのー、あれだ、我々はちょっと急用ができましてね。これで帰らせて………」
「あぁ、またですか。分かりますよ。その理由は先ほどの声ですよね」
「声? やはりあれは………」
「あれはマシンの音です」
「まさか」
「あら、気になるならご覧になります?」


こちらへと夫婦を案内した女は開かれた扉の中に堂々と入ったが、夫婦は扉の中を怖くて覗けなかった。




「お兄様、やはりこのマシン、変えたほうがいいですわよ」
「………なぜ」
「お客様が怖がります」
「ああ、またか。また怖がらせてしまったのか」
「ええ」
「でもな、修理に出すと何ヵ月か使い物にならなくなるんだぞ」
「それはそうとしても、でも、ほら、現に今も、いらしてるお客様が怖がってしまって、この部屋にすら入れないのよ」

「すみません、怖がらずにお入りください」
「どうぞ、お入りになって」




中から聞こえた声に、二人は躊躇しながらも恐る恐る足を運んだ。


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