B級彼女とS級彼氏
「な、何? どうしちゃったの?」
「慎吾さん」
「はい?」
「スライムついちゃいました」
「ついちゃったって、……僕には歩ちゃんが自ら進んでつけたようにしか」
「なのでとって下さい」
「はいぃ??」

 私がいたって真剣な顔をしているからか、慎吾さんは首を捻りながらもスライムへと手を伸ばす。慎吾さんはベトベトする手触りがイヤなのか、眉間に皺を寄せていた。

「いや、歩ちゃん、これって手では取れないんじゃないかな?」
「そうですか。ならいいです」

 慎吾さんでもやはり身体が固まらなかった。これは一体どう言う事だろうかと顎に手を置きながら考えていると、奥の扉から店長が入ってきた。

「お! お邪魔しちゃったかなー?」
「と、父さん!!」

 ニヤニヤした顔つきで店長は近づいて来ると、手にしていたゴミ箱を私の足元に置いた。

「いやー慎吾も隅に置けんな~。バイトの子に手をだすとは!」
「な、何を言ってるんだよ!」
「とぼけるなってー、全部みっちゃんから聞いたんだから。お前、芳野さんとご飯食べに行くって宣言しといて帰りが午前様だったそうじゃないか。いやぁー、やるやるとは聞いておったがまさかここまでとは」
「父さん!? 話が歪曲し過ぎだよ、夫婦して変な妄想すんなって! ちょ、歩ちゃんからも一言いってやってよ」
「ああ、あの日の事ですね? あの日は慎吾さん、家にいたんですよ。シャワー浴びるために」
「はぁっ!?」
「ほっほー! いい事聞いちゃった! 早速みっちゃんに報告せねば」
「父さん、言わんでヨシ! ってか、歩ちゃーん、何でそんな疑われても仕方が無い様な事を堂々と言うのかなぁ?」

 動揺している慎吾さんを見るのが可笑しくて、思わず本当の事を言ってしまった私だったが、ここで重大なミスをした事を発見した。そのミスとは、店長は口が軽い、と言う事だ。他のバイトに言ってしまったとしても別にどってことないが、万一、輝ちゃんの耳に入りでもしたら……。

「店長! 今のは全部冗談です!」
「そ、そうそう!」
「えー?」

 店長は私の話なんて全く聞く耳を持つ気も無いといった様子だったが、今のは慎吾さんをからかうために冗談で言っただけなのだと押し通した。

「あー、もう! 余計な事言わなきゃ良かった。……あ、そうだ。店長」
「ん? なんだい?」
「髪にスライムがついたんですが」
「ああ、本当だ」
「取ってください」
「えー? これ取れないんじゃない?」

 よし、なんとか話をすり替える事が出来そうだ。このニヤニヤ話も終わらせる事が出来たし、違う人物でも実験をすることが出来る。少し年齢的な差はあるが、この際どうでもいいだろう。

「うーん、これやっぱ無理だね」
「そうですか、まぁ仕方ないです」
「どうやったら取れるかみっちゃんに電話して聞いてみるよ」
「あ、そうだ。裏に強力洗剤があったはずだからそれ試して見たら?」

 父と息子はそう言うや否や、裏へと引っ込んで行った。

 ――店長でもやっぱりなんともなかったなぁ。
 やはりあれは気のせいなのだろうか。何ともすっきりしないが、いつまでもこんな事やってるのも時間の無駄だ。とりあえず、この実験は終わらせようと、髪についたスライムを取りにかかった。

「うーん、本当に取れないなぁ」

 もう完全に髪の毛と同化してしまっている。この姿で仕事をするのは流石の私でもどうかと思い、仕方なくセロテープ台に差してある鋏を掴んでスライムが完璧に取り除ける位置に刃を置いた。

「おまっ、何やってんだ!!」
「へ?」

 いつの間に店にやってきていたのか、小田桐が物凄い形相で私を見ていた。

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