大家様は神様か!
曲がり角の向こう側から、「逃げたか?!」「こっちだ!」という男たちの声がする。
一人じゃなかった……!
「すみません、私もう行かないと。助けてもらってありがとうございました」
ふわふわイケメンと眼鏡美人にお礼を言い、私は外れていたフードを被り直した。
そして、町の方に体を向ける。
「じゃあ」
背後にいる二人に軽く頭を下げ、目の前に見える華やかな繁華街に向かって走り出した。
夜の街として栄えている所だからか、まだまだ人通りは多い。
大人になるまでこんな所には来ないって決めてたのに、馬鹿親父め!
どこに逃げたかわからない父親に、心の中で悪態をつきながら、私はキャバクラとホテルの立ち並ぶ間を走り抜けた。
脳内で再生される、尋常じゃないほどドスの効いた声。
怒りより先に、泣きたくなるような恐怖。
『アンタの娘拉致って売り飛ばすぞゴルァ!!』
客引きをするキャバ嬢を横目に、将来の同僚だ、なんて悲観しながら、私は走り続ける。
大声で叫びたい気持ちを必死で抑えながら。
―――――そりゃないよダディ。