大家様は神様か!

進もうか、と大家さんは私の手を引いてまた歩き出した。

突然の出来事に頭がついていかない。


「言ったでしょ、君に拒否権はないんだって。今日は俺とデートして」


こうなればヤケだ。

家賃を下げてもらう代償が恋人のふりしてデートなんて、安いもんだ。


「…………わかりました」

「よし、そうと決まれば早速行こう!最上階から攻めてくよ」


今日1日振り回されるのを覚悟し、私は小さく息を吐いた。

だけど次の瞬間、吐いた息を吸い込む。


右手首を掴んでいた大家さんの指が、私の手の指に絡んだ。

いわゆる恋人繋ぎというやつだ。

意外にゴツゴツした男っぽい手に驚きを隠せずにいると、隣に来た大家さんが私を見る。

当然だけど、いざ並べば私より相当高い。


「あ、今日は大家さんって呼ぶの禁止。裕って呼びなさい」

「な、なんと……」

「敬語はおーけー。年の差だからね。ルールはわかった?」


見上げる形で渋々頷くと、繋がれた右手が強く握られた。


「1日よろしく、華火」


いつもの『華火』とは違う意味合いが込められている気がするのは、気のせいじゃないかもしれない。

妙にうるさい心臓が気に入らなくて、私も負けじと握り返した。



「お願いします、……ゆ、裕」



合格、と笑みを深めた大家さ…裕の笑顔が眩しくて。


SでKYな純愛小説家は、どうやら女子キラーのようです。


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