大家様は神様か!
そう、食後だ。
食べた後と書いて、食後。
つまり、胃に何か入れないと食べてはいけない。
「大家さん、これ食後って書いてあります」
「食後……?」
しっとりと濡れたまつ毛を伏せたまま、大家さんが私の言葉を反芻した。
しかし、私が立ち上がった瞬間、大家さんの閉じられた瞳がかっ、と開かれる。
「まっ、待て華火!まさか……」
事態に気付いたようで、大家さんが私に向かって手を伸ばした。
が、時すでに遅し。
私は部屋を半分出た体勢で、背後の大家さんに向かって宣言する。
「大家さん…………台所、借りますね」
彼が何か言っているのは無視して、寝室のドアを閉める。
タバスコ事件からまともに包丁も持っていないけど、私だってあの事件から何も学んでない訳じゃない。
『反対の味を入れても打ち消されない』
――成長した私を見てください、大家さん。
今は亡き(死んでないけど)恩師にしっかり念を送ってから、私は意を決して台所に入った。
―――――――大家さん地に伏す。
こんな時こそ私の出番だ。