今日も君に翻弄される。
「はい動かない」


耳を塞ごうとした両手は和泉くんの両手に絡めとられて、身動きができない。


ちゃっかり恋人つなぎとやらをしている辺りが意地悪だと思います和泉くん……!


「今日は二人きりがいいんでしょ、二人なんだから近くにいようよ」

「二人きっ……だとしてもこんなに近づく必要はどこにもないよ!?」

「うん、そうだね」

「……それならはなれてください……!」

「でも」


わたしの必死の反論を、やっぱりお砂糖で塗り固められたお言葉で封じてしまう。


「でも僕が、こんなに近づいていたいんだ」

「っ」


詰まる喉を震わせて、どうにかこうにか切り返す。


「……外、では、手も繋いでくれないのに?」


和泉くんは平然と返事をした。


「照れてる葵を公衆にさらすのはもったいないからね」


そして、何事もなかったかのように。


もう一ついる? なんて。


さらりと話題を転換する。


話題を変えられることこそが、和泉くんの余裕を体現しているようで悔しかった。
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