今日も君に翻弄される。

Ⅳ だって、好きなんです

『泡になるよ』

「は……?」


朝。


まどろみから僕を引きずり出したのは、うるさく鳴る枕元の携帯だった。


Ludwig Van Beethoven――ルードヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン作曲、交響曲第五番ハ短調Op.六七「運命」:第一楽章。


ジャジャジャジャーン、とうるさく鳴る、有名な曲。


このフレーズが繰り返されたことにより、本来目覚ましが響くはずの三十分も前に、僕は叩き起こされたのである。


「何……」


起き上がって止めながら、思う。


「運命」という標題は。


「このように運命は扉をたたく」とベートーヴェンが言った、という真偽の怪しい逸話に由来する。


現実主義を自負する僕にしては珍しく、

極めて珍しく、


葵と出会ったのは運命だと考えているけど、運命だとか星回りだとか巡り合わせだとか、そういった言葉は少々大仰なように感じる。


まあ、そんなことは置いておくに留めて、葵からのメールの話をしよう。
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