今日も君に翻弄される。
上下する水が怒号を上げて、威嚇のように泡立つ。


「ん? 何、あれ……?」


何か黒っぽいもの、否、元は真っ白だっただろう礼服に、泥が染みて変色したのだろう。


黒ずんだ重たい服先が、引きずる重力に逆らうように暴れる。


咳き込む美しい顏(かんばせ)が見えた。


その、顔の持ち主は。

どんぶらこー、どんぶらこー、と流れてきた人は。


和泉くんじゃないか……!


ぐっと拳を握る。


原作では、人魚姫が頑張ったのに報われない、あの有名な場面。


失敗はできない。


「和泉くん、今助けに行くよ!」


わたしは意気込んで最短距離の方角を定めた。


実はわたし、正直に、率直に言って、あまり泳ぎは得意じゃないんだけど、まあきっと何とかなるよね、と楽観視。


待っててね、和泉くん。


決意したわたしが泳ぎ出すと。


遠くの方で波にもまれつつ、むくり、顔を上げた和泉くん。
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