今日も君に翻弄される。
瞬時に状況を飲み込んで、即行で避難するかと思いきや、少し考える素振りを見せたのは、ペース配分を計算したからだろうか。


すぐに、滑らかで美しいフォームを駆使する。


真っ黒な遥か彼方に、揺らぎながら、今にもかすれて消えそうにたたずむ岸に向かって泳ぎ始めてしまった。


えー……。


待っててよ。


さすがというか何というか、綺麗で速い泳ぎだったけど、問題はわたし。


何を隠そう、このわたし――カナヅチ。カナヅチである。


得意な泳ぎ?

犬かき、という名の沈むバタ足ですが、何か。


人魚だから足はない。


適当に掻いているうちに、手でしのぐのにも限界が来るのは必然と言えよう。


「……っ、ごぼえぼっ!!」


奮闘むなしく、迫り来る波にわたしはあっけなく沈んだのだった。
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