今日も君に翻弄される。
「…………早くかめ」


うん、慶介さんちょっぴり呆れてます。


和泉さんは黒い皮のリュックから箱ティッシュを取り出すと、静かに鼻をかみはじめた。


ちょっと横向くのが気遣いですな。


「…………」


うーん……何で鼻かむのまで優雅で上品なのか……。


おかしい。わたしがかんだらひどいよ。音するもん。


「和泉聞けよ、山下がさあ」

「ああ、サッカー部の人?」

「そうそう、なんかめっちゃ日焼けしてるやつ」


慶介さんは係の人が説明を始めるまでずっとこんな調子で、和泉さんはごめんと断りながら何度も何度も鼻をかんでいた。


「では、開始は九時半からとなりますので、五分前には着席していてください」


プツリ、マイクが切られると、ざわめく教室。


トイレ行く? なんて言っている話し声も聞こえる。


トイレか、行った方がいいのかな。でも今行っても絶対混んでるしなー……。


行くか行かないか、それよりおやつを食べるか、それが問題だ。


迷っていると、終始慣れている様子で説明を聞いていた和泉さんが、慶介さんを呼んだ。


「ねえ慶介」


初の和泉さんからの話題振りに、お、と何となく耳を傾ける。
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