今日も君に翻弄される。
「あの」

「……え、はい」


思いも寄らない方角からのかけ声に戸惑って、和泉さんはそっとこちらを振り向いた。


「何でしょう。すみません、うるさかったですか」

「いっいえ!」


そうじゃなくて、と。


とっさに取り出したティッシュを差し出す。


「ティッシュ、よければどうぞ」


押しつけかねない勢いで出すと、和泉さんの目が見開いた。


「え?」

「ちゃんと鼻に優しいのだし、新品だし、足りなかったら新しいのもあるし、だから、あの、どうぞ」


何だか咎められているような気がして、どんどん言い訳を重ねる。


言い訳はかっこ悪い。

言い訳を重ねるのはよくない。


でも、それでも、どんなに馬鹿だって思われたって、変な目で見られたって、いいから。


よければどうぞ、使って。


そう、和泉さんに言いたかった。
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