今日も君に翻弄される。
「使いますか」

「大丈夫です。ありがとうございます」


「使いますか」

「お借りします。ありがとうございます」


こんな会話を教科が終わるごとに繰り返している。


和泉さんはとても細やかな人で、休み時間になると鉛筆削りを貸してくれた。


わたしからはお願いしにくいなあ、どうしようかなあ、


と心配していたのは無事杞憂で済んだ。


あと、それから。


和泉さんが頭いいのは分かってたんだけど、隣でずっと軽快に鉛筆が走る音がしている状況は結構わたしを引き上げてくれた。


あまりのできなさに眠くなる数学で寝なかったのは、全面的に和泉さんのおかげ。


うわあすごい解けてる! うわあうわあ!


と毎度のように思っていたことが和泉さんに伝わらなくてよかった。


絶対馬鹿だと思われるもんね。

否定できないけど。


お菓子がモチーフのお弁当を広げながら、ちらり、和泉さんを横目で見る。


和泉さんが食べているのはサンドイッチ。


高そうな美味しそうなサンドイッチだ。

あれだ、きっとサンドウィッチとか言うんだ。


お店で買ったのかなあ。どこで買ったのか教えてもらえないかなあ。


ちらちら眺めてたら目が合った。


にっこり微笑まれて固まる。


……ぐおお、気まずい。


お昼休みが終わって次の教科のマークシートを準備する頃には、何だかもう親密に話しかけられそうなくらい、目が合ってしまっていたのだった。
< 163 / 261 >

この作品をシェア

pagetop