今日も君に翻弄される。
鞄を下ろして、その場で食べてくれる。


持ち帰ったら食べたかどうか分からないから、お礼をしたがったわたしの目の前で食べてくれたんだと思う。


「美味しいです」

「よかった……」


よく気の利く、聡い人だ。


急いでいるかもしれないのに、わざわざ残って食べてくれた。


ちゃんと感想をくれた。




ごみをくしゃり、握りこみながら、和泉さんは不思議そうにわたしを見遣る。


大分前にありがとうと鉛筆を返した割に、明らかに帰らない様子なのを訝しんでいるらしい。


「残るんですか?」


質問に頷く。


「家で寝ちゃうと思うので」


ここはもうしばらく開放されている。


閉まるまで、充分復習する余裕はある。


お腹は空くけど、帰りに全速力で帰れば多分何とかなるし。


赤ペンがあればできるから、和泉さんに迷惑をかけなくてもいいのも大きい。


「なるほど」


頷いた和泉さん、腕時計を確認して時間を確かめると、


少し考えて、

何やら連絡をして、

かたり、椅子を引いた。


「……やっぱり、隣良いですか」


照れたように首を傾げた和泉さんに、わたしは大げさに首肯した。
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